第一印象のデザインや、ウェルビーイングなUI設計の参考にしたい本3冊

on 2021.04.23
第一印象のデザインや、ウェルビーイングなUI設計の参考にしたい本3冊

2021年現在の私たちにとって、Webやアプリのデザインってとても重要です。毎日使うわけですから。毎日使うお茶碗や箸と同じぐらい、Web・アプリのデザインって人の人生に影響してくるんじゃないか、ぐらい思っています。UIやUXはウェルビーイング=人の心・身体・社会的な健康に関わるものなのかもしれない。
エンジニアのみなさんが日々作り出されている素晴らしいプロダクト・サービスに、「もう1さじ」ヒントになるかもしれない本を3冊ご紹介します。


ライター:平田提

1.『判断のデザイン』

『判断のデザイン』は広告バナーや記事のメインビジュアル、LPのデザイン、UIの参考になるかもしれない本。
著者のチップ・キッドさんはニューヨーク在住のデザイナーで、村上春樹(アメリカ版)やジョン・アップダイクなど著名作家の装丁(そうてい)を手掛けられてきました。たくさんの本が並ぶ書店。読者になるかもしれない人に本を印象づけ、手にもってもらうために装丁はとても大事。

そういったデザインは「第一印象がすべて」と言い切るキッドさん。
第一印象を決める要素を2つの軸で整理します。

1.思わず「ハッ!」とさせられる「明瞭」さ。
2.「なんだこれ?」と興味を引かれる「不明瞭」さ。

『判断のデザイン』ではこの2つの軸を両端に置いた「不可解度(ミステリー)メーター」で日常で目にするデザインを10段階で評価していきます。

↓「不可解度(ミステリー)メーター」はこんな感じ。
明瞭「!」 |-|-|-|-|-|-|-|-|-| 不明瞭「?」

例に挙げられているのが、ダイエット・コーラ。銀のベースに赤・黒のはみ出すぐらい大きなフォントで商品名がリデザインされた缶は「『良い』不明瞭さ」。一方、地下鉄に貼られたダイエット・コーラのポスターは「違法薬物をキメよう」(コーク=コカインの隠語)とも捉えられるコピーに。「せっかく商品のデザインが良いのに、広告の意図が不明瞭すぎる」とキッドさんは残念がります。

意図せず明瞭/不明瞭になるのではなく、どちらに印象づけるのか意識してデザインすべきというのが、キッドさんの主張。
人の行動のデザインには「見て見て」という一方的な主張だけではなく、受け手の心のあり様を考えることが大事なんですよね。

↓TEDトークの動画で一部の内容を観ることができます。
https://www.ted.com/talks/chip_kidd_the_art_of_first_impressions_in_design_and_life?language=ja


『判断のデザイン』チップ・キッド(著)坪野圭介(訳)/朝日出版社


2.『ヘンテコノミクス』

Webサービス・アプリの料金ページって「FREE」「STANDARD」「BUSINESS」と3つ並ぶような、よく見るパターンがありますよね。あれってなんで3つ並ぶのが良いんでしょうか。

佐藤雅彦さん・菅俊一さんによる『ヘンテコノミクス』は行動経済学を解説するマンガ。上の料金ページのような例は、3つ並んだときに上と下を避けてつい真ん中を選択してしまう「極端回避性」と紹介されています。

佐藤さんはメディアクリエイターで、電通時代の「バザールでござーる」などのTVCM、「だんご3兄弟」「ピタゴラスイッチ」などの教育番組でも有名。菅さんは佐藤さんの教え子で、Eテレ「2355/0655」のID映像などを手掛けるディレクター・デザイナー。
『ヘンテコノミクス』はお二人の原作に高橋秀明さんによる身近なエピソードの漫画で行動経済学が学べます。

細かい行動経済学的な設計は、売上・利益にも貢献するでしょう。一方で人にやさしく伝える効果もある。例えばこの本で紹介されている「フレーミング効果」では、手術の成功率を「20%は失敗」「80%は成功」と伝えるのがよりやさしいでしょうか。もちろん後者ですよね!

恋人とデートに行って「おいしかったけど、高かったね」と言ってしまうと気分が台無しに。でも「高かったけど、おいしかったね」だと印象がよくなる。これは複数の情報を順番に出されたとき、後に提示された方を印象強く評価してしまう「新近効果」だそう。ふだんのチャットで誰かにフィードバックするときなんかにも参考になる考え方です。

佐藤さんの『新しい分かり方』、菅さんの『観察の練習』などそれぞれの単著もおすすめなので気になった方はぜひ読んでみてください。

『ヘンテコノミクス』佐藤雅彦・菅俊一(原作)高橋秀明(画)/マガジンハウス


3.『わたしたちのウェルビーイングをつくりあうために ―その思想、実践、技術』

近年注目を集める「ウェルビーイング」は「心も体もよい状態」のこと。宗教や居住地域によってウェルビーイングの捉え方は違い、日本・中国・ノルウェーなどの国は「幸福は運にもたらされる」という意識が強いそう。一方アメリカなどでは「幸福は個人の能力で獲得するもの)という意識が根強い。実はこれは個人と他者との関係の捉え方、世界認識の差異によりそう。これについてはドミニク・チェンさんのWIREDの記事が参考になるでしょう。
https://wired.jp/2019/03/14/well-being-dominique-chen/

『わたしたちのウェルビーイングをつくりあうために』ではUIやUXで人の幸福感がどう変わるのかの事例や背景思想がたくさん紹介されています。
例えばビジネスSNS「Linkedin」では他人のスキルを推薦できますが、その行動はAIがサジェストしたキーワードを選ぶもの。この問題は「その作業がすぐに完了してしまうこと」とシドニー大学教授でポジティブコンピューティングを研究するラファエル・カルヴォさんは指摘します。LinkedInの推薦機能は「誰かを助けている」感覚が薄い。一方、企業内SNS Yammerでは「なぜ推薦するのか?」とう質問がユーザーに投げかけられます。時間をかけて人に向き合える設計だとラファエルさんは語ります。

豊橋技術科学大学教授・岡田美智男さんは自身の関わる「弱いロボット」について紹介。岡田さんが開発したロボットは、ゴミを拾い集めるロボットなのに手も腕もついていません。ただゴミ箱が動くだけなのですが、ゴミを入れてくれると「ぺこり」とおじきをします。すると子どもたちや周りの大人がどんどんゴミを入れたくなる。助けている感覚になる。ロボットの「弱さ」が、周りが行動するようにデザインされているんですね。

わたしたちのウェルビーイングをつくりあうために ―その思想、実践、技術』
渡邊淳司、ドミニク・チェン(監修・編著)/ビー・エヌ・エヌ新社



私が以前取材した会社の社長さんは、発達障害や身体障害の方を積極的に受け入れられていました。その理由は、誰かの弱さや苦手をケアしようとすると、そうでない人にも便利になるからだそうです。例えば単純な話、朝どうしても起きられない社員のためにフレックス制度にしたり、昼寝OKにしたら、他の社員も働きやすくなったとか。これも「弱いデザイン」かもしれない、と思いました。

TwitterなどSNSの「フィルターバブル」問題がずっと言われていますね。自分の興味のあるものしかサジェストされないせいで、どんどん意見が偏っていってしまう。その結果が政治や、最悪、人の生死にすら影響することもある。

ただ逆にいえば、今回紹介した本のようにUIや第一印象のデザインが人のウェルビーイングを高めることもできるかもしれない。いち生活者として、そんなプロダクト・サービスをわくわくしながら待っています。